1−10.シュメル神話



 シュメールの神々の中で、ナンナ神(月神)、ウトゥ神(日神)、イナンナ女神の神話を取り上げてみました。人類に文明や律法を与え、人類と共に敵と戦う厳しい神々の姿だけではなく、日常の一面を垣間見る事が出来ます。シュメル当時のエル・ランティ様、ミカエル様、ルシエル様の日常の生活がどのようなものであったのかに触れる事が出来るのかもしれません。([シュメル神話の世界][五〇〇〇年前の日常]他より抜粋)  ⇒[シュメル人の出自]について



◇ エンリル神の嫁取り

 エンリルは妻にする女性を探していた。乙女スド女神を見初め、エンリルは彼女に結婚を申し込むが断られる。そこでエンリルは家臣を使者にたて、スドの母であるニサバ女神に、贈物やスドの将来を約束して、結婚を申し込む。
 婚姻が取り決められると、さまざまな動物や食物などからなる莫大な贈物がニサバの元に届く。
 スドはエンリルの姉妹アルル女神に付き添われて輿入れし、「ニンリル女神」と呼ばれるようになった。
※ エンリルがスドを犯し、皇位を剥奪されたとする物語は事実だったのか? どうも疑わしい。



農夫か牧夫か

 あるとき、太陽神ウトゥが妹であるイナンナ女神に結婚を薦めた。
 「妹よ、乙女イナンナよ。羊小屋を手入れする牧夫と、畑の畦を耕す農夫が候補者だが。」するとイナンナ女神は「牧夫なんか絶対いやよ」と答えた。

 若き勇者ウトゥ神は困惑し「妹よ、乙女イナンナよ、なにゆえにそなたは不服なのか。牧夫のバターは上等で、乳も上等。牧夫の手になるすべてのものが、なにもかも素晴らしい。イナンナよ、牧夫を夫と定めてはいかがか」と牧夫を擁護する。
     ・・・以下略・・・
 結局、イナンナ女神は、牧夫のドウムジ神と婚約し、地球で始めて愛の歌を歌うロマンチストでもある。



◇イナンナの花嫁化粧


 イナンナ女神賛歌に「共に身を横たえる男が、花嫁として布を被せることなく、妻にはなれない」とあり、婚礼の際には花嫁に布を被せ、それを花婿が取るようなことをしたらしい。

 「牧夫のドウムジ神のために、私(イナンナ女神)は湯浴みをし、
  私は私の脇腹を練り物で飾り立て、
  私は私の口にシェムブルグ(口紅のようなもの)を塗り、
  私は私の目を化粧墨で縁取りしよう」



◇イナンナ女神のアン神への祈祷

 黄昏時、女神は最高神アンに犠牲を捧げ、反逆の山エビフを滅ぼすための祈りを捧げた。しかしアヌの返答は、否定的だった。

 「かわいい娘がエビフの山々を滅ぼしたいなどというておるが、山々の恐ろしさは神々
  にも轟いておる。エビフの山々には果物が実り、豊かなのだが、獅子が森林の枝の下
  をうろつき、野生の山羊や牡鹿も多い。野牛が草を食み、鹿のつがいが潜んでおる。
  余りに恐ろしいとことじゃ。
  乙女イナンナよ。そのようなところに出向いて、逆らっても無駄じゃよ。」

 しかし、アン神の制止もきかず、イナンナ女神は、戦闘服に身を包むと、洪水と大嵐でエビフ山を成敗してしまう。



◇イナンナ女神エンキに仕事をねだる

 エンリル神の命令で、エンキ神が神々に役割と仕事を分担した。その中で、イナンナ女神だけ仕事が与えられなかった。
 女神は泣きながらエンキ神の所にやってきて、「父上よ、エンキ神よ。エンリル神はあなたに諸神の運命を定める仕事を委ねました。それなのにこの私、聖なるイナンナだけは除け者です。自分にも何か役割を与えて欲しいのです」と口説いた。なんとも、可愛らしい女神の姿です。



◇ナンナ神のエンリル詣で


 月神ナンナは父エンリル神と母ニンリル女神を訪ねて、二プルへ行こう。二プルにはなつめやし樹が生えており、偉大なる母上は上等の麻服をまとっておられた。
 ナンナ神は聖船を作らせる事にした。船に使う葦、伊草、糸杉、などを取り寄せ、聖船を建造した。そして、犠牲用の上等な牛や羊や山羊を積み込み、その他にも亀や鯉、鳥類、籠盛の卵などを積み、運河沿いに家畜を配備して、二プルに向けて出航する。
 途中、都市に立ち寄りそれぞれの神から歓迎され、引き止められるのだが、ナンナ神はどれも断り、二プルに到着する。
 ナンナ神はエンリルの波止場に到着し、神殿入り口の門番に「神殿の門をあけよ」と呼ばわり、供物を数え上げ、最初と最後の供物をお前にあげようというと、門番は大喜びで門の閂を開けた。
 エンリルの神殿でナンナが供物を捧げると、エンリル神はたいそうお慶びになった。エンリル神は「お菓子が大好きな我が子ナンナ神に甘いお菓子を出させよう。おいしいパンを持ってこさせ、上等のビールを注がせよう。甘い蜜、うまい水も」と優しく声をおかけになった。「我が父上よ。いろいろ頂いて、ご馳走さま。、もうすっかり満腹です。大いなる山よ、エンリル神よ。私はウルへ帰還するにあたって、我が河には鯉の洪水を、我が田畑には大麦を、沼地には沢山の鯉を、葦を茂らせ、林には野生の山羊やガゼルを、野には樹木を、果樹園には果汁と葡萄酒、王宮には我が長寿をお願いしたいのですが」とナンナ神が言うとエンリル神はそれらすべてを賜った。



◇シュメルと都市ウルの滅亡哀歌

 ウルでは誰一人として食べ物や飲み物を調達に出かける者はいない。彼らは衰弱し、歩くことさえままならないのだ。エンリル神がこの都市に邪悪な飢饉を差し向け、人々を不満と裏切りの渦中に置いたが、老いも若きも立ち上がる元気さえなかった。
 王宮にも食料は無く、居酒屋にビールも無く、主神ナンナの神殿にも穀物倉庫にも貯えがなくなった。
 ナンナ神はエンリル神に涙しながら訴えた。「父よ、エンリル神よ。なにゆえあなたはウルを見捨ててしまわれたのか。かつては初穂を積んだ船がもはや初穂を積む事はできず、エンリル神への供物ももはや二プルへ運ぶことができません。国中の神官たちは風魔に(さら)われてしまい、ウルはただの廃虚と化した。
 父よ、エンリル神よ。どうかウルに人々を増やしてやってください。忘れられたシュメルの聖なる力を回復させてください」と訴えた。





シュメルの庶民生活

 シュメル人は都市に住み、農耕と牧畜を営み、神々から与えられる文明社会に暮らしていました。神々と神官・王を頂点とし、これを支える官僚制が整っておりました。一方、シュメル以外の民族を蛮族と見ており、神々を頂点とする官僚制国家でも有りました。
 シュメルの最高神エンリルを含めてニヌルタ、月神、日神、エンキなどは、大神として崇拝されていました。彼らの子孫は、都市を守護する都市神、個人神を守護する個人神として、大神と人類の間を取り持つとされていました。日本の神々と酷似しています。都市神が氏神に、個人神が先祖の霊に、大神が天照大神に相当します。更に、シュメルの王は神官であり、神を祭る事が勤めでした。大司祭・天皇と同じです。


■豚肉と奴隷女
  脂身はおいしい。羊の脂身はおいしい。
  女奴隷には何を与えようかしら。
  彼女には豚のハムを食べさせておけ。


■ 魚と愛人
  私の夫は私のために穀物を積み上げてくれる。
  私の子は私のために生活用品をくれる。
  私の愛人には魚の骨をとらせよう。


■ 結婚の諺
  お前の好みで妻を娶れ、お前が望んだときに子供を持て。
  彼にとって楽しいことは結婚、良く考えて離婚。


■ 婚姻の契約
 庶民の結婚もまた神々の結婚同様、両性の合意のみならず父親の同意が必要だった。
 男性が女性の父親に婚資を送ると「婚約」が合法的に認められた。父親の同意と、証人の前で結婚締結を宣言し、結婚契約を結んだ。


■ 王妃が作った子守唄
  私が歌っている間に、坊やがたくましく育ちますように、
  私が歌っている間に、坊やが大きく育ちますように、
  坊やが木の根のように強い基礎を置きますように、
  坊やがシャキル木のように広く枝を広げますように。
   ・・・
  坊やの妻は坊やの暖かい抱擁に横たわりますように、
  坊やの息子は坊やの広げた腕の中に横たわりますように、
  坊やの妻が坊やと共に幸福になりますように、
  坊やの息子が坊やと共に幸福になりますように、
  坊やの若い妻が坊やの抱擁に幸福でありますように、
  そして坊やの息子が坊やの膝の上で元気に育ちますように。


■ 死んだ使者と乙女
 死んだ使者に水と衣服を与えている。シュメル人の生死観には、天国と地獄は無い。
 「私はパンを置き、(パンで)それをこすった。
  その紐が解かれていない鉢から、そのふちが汚されていない皿から、
  私は水を注ぎ、私は地面に注ぎ、彼(死んだ使者)は水を飲んだ。
  私は像に良い油を塗った。
  私は椅子に新しい服を着せた。
  魂が入り、魂が離れた。
  冥界にある私の使者、冥界の真ん中で彼は回って、彼は横になっている。」





世界最古のウルナンム法典(前2112頃)

 ハムラビ法典のように、やられたらやり返す「同害復讐法」ではなく、近代的な法規です。その一部を紹介します。

 第 一条:他の人の頭に武器を打ち下ろしたら、殺されるべきである。
      尚、正当防衛は認められていた。
 第 二条:強盗を働いたら、殺されるべきである。
 第十八条:足を傷つけたら、銀10ギオンを量るべき。
 第十九条:骨を砕いたら、銀1マナを量るべき。





学校生活

 書記(官僚)を目指す学校生活は、エリートを育てる教育で厳しかった。遅刻、居眠り、宿題を間違えると鞭で打たれた。
 学校から帰ると、今日習ったことを両親に報告し、宿題を片付ける。寝る前には遅刻しないよう早く起こしてくれと両親に頼む。朝起きると、パン二枚をもって登校する。授業料は食料品や衣類で収めたようだ。
 授業は子供達が眠くならないように、謎々が使われたり、知識の詰め込みに付いても様々な工夫されていた。


作品:学校時代
 「生徒よ、君はずいぶん前から何処へ行っているのですか。」
 「ぼくは学校へ通っています。」
 「君は学校で何をしているのですか」
 「僕は粘土板を大声で読み、お弁当を食べました。
  新しい粘土板を作り習字を書き終えました。
  帰宅すると、お父さんに今日習ったことを暗誦し、粘土板を大声で読みました。
  お父さんは喜んでくれました。
  僕はお父さんに『のどが渇きました水を下さい。おなかがすきました。パンを下さい。
  足を洗ってください。ベッドを出してください、眠たいのです。朝僕を起こしてくだ
  さい。遅刻できないのです。先生に鞭で叩かれます』と言いました。
  朝起きると僕はお母さんの前に行き、弁当を下さい、学校へ行きますと言いました。
     (中略)
  僕は教室に入って座り、先生は僕の粘土板を読みました。
  先生は間違っているといい、僕を鞭で叩きました。
     (中略)
  先生は僕の発音が悪いといって、鞭で叩きました。
  先生は僕の字が下手だといって、鞭で叩きました。」

 散々な一日だった息子は、父親に先生を招いて、もてなして欲しいと頼む。
 父は先生を自宅に招き、なつめやし酒を飲ませ、食事を出し、衣服を贈ってもてなした。もてなされた先生は掌を返したように、この生徒をほめた。

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